THE ENGLISH PATIENT
監督: アンソニー・ミンゲラ 
音楽: ガブリエル・ヤーレ 
出演: レイフ・ファインズ,ジュリエット・ビノシュ,クリスティン・スコット・トーマス,ウィレム・デフォー,コリン・ファース,ナヴィーン・アンドリュース,ユルゲン・プロフノウ,ケヴィン・ウェイトリー
1996年 アメリカ映画

 

 

96年のアカデミー賞を9部門で受賞した壮大なラブ・ストーリー。 
第二次大戦下のイタリアの野戦病院を舞台に,「イギリス人の患者」と呼ばれる記憶を失った全身火傷の患者とそれを介護する看護婦とのやりとりの中で,少しずつ「患者」の過去が明らかになっていくというお話。
話が進むうちに「患者」は大戦直前の北アフリカで人妻と道ならぬ恋に落ち,その果てに瀕死の重傷を負ったことが明らかになっていきます。
これを不倫の代償と見るか悲劇の愛と見るかは,人それぞれ見方が分かれると思いますが,
劇中,人妻役のキャサリン・スコット・トーマスが「今が一番幸せな時であり,一番不幸な時でもある。」という風なことを言うくだりが「不倫」を端的に表現していると思います。
僕にはこの作品,道徳の教科書のように見えました。
ストーリー展開が巧みで,謎めいた「患者」の北アフリカでの過去が徐々に明らかになっていくエピソードと,イタリアでの現在進行形のドラマが見事に絡み合いながら綴られていきます。
また,患者の過去の「不倫」と,看護婦とインド人将校の現在進行形の「純愛」という

 

2組の「愛」を描くことで,ドラマにより深みが増していました。
映像も幻想的で視覚的にもとても美しい作品です。

 

 

音楽はフランス映画界で活躍後,ハリウッド作品も手がけるようになったガブリエル・ヤーレ。
ベイルート出身で,フランスの音楽院で学んだ後,フランスで活動を始めた人です。
独特のエキゾチックな音とストリングスを中心とした繊細なフレーズを得意とする人で,

 

 

幻想的なメロディを得意としています。
逆に言うとパンチの効いたアクション・スコアとは無縁の人です。
ドラマーからすると面白くない音なのですが,メロディが美しいのでついアルバムを買ってしまいます。
本作も神秘的で悲劇を予感させる壮大なテーマ・メロディがとても印象に残ります。
劇伴でも何度もこのモチーフが出てきます。
ヤーレは本作の依頼を受け,ロケ地を実際に訪れ,本編のラッシュも見た上で,万全の準備で作曲に望んだそうです。
力が入っているだけに本作でアカデミー音楽賞も受賞しています。
また,オープニングを飾るマルータ・シェベスチューンというハンガリーの女性シンガーによる歌も強烈な印象を残します。
これはハンガリーのトラディショナルだそうですが,一聴するとアラビアの音楽かと間違えてしまいます。
なぜハンガリーの歌を使ったのかは,劇中でその理由が分かります。
なお,ヤーレはサントラ以外にもオリジナル・アルバムも出していて,クレプスキュール系のアーティストと感触が似ているところがあります。